株式会社 診断と治療社

希望のリハビリ がん終末期の緩和リハビリテーション

がん終末期のリハビリというと,終末期の患者に今から運動をさせるの? と問われるが,それは誤解である.本書で紹介するがん終末期のリハビリは,患者が「今したいこと」に沿って生活の質を上げることを目指す「希望が出発点のリハビリ」である.「歩きたい」「外出したい」といった終末期のリアルな要望にリハビリの工夫で応えた事例を紹介し,終末期の医療に携わる専門職から寄せられた疑問にQ&A形式で答えた.在宅ケアや緩和ケアに携わるスタッフにすぐに役立つ1冊.
  • ピース訪問看護ステーション リハビリ研究ディレクター 安部 能成
定価:
3,850円(本体価格 3,500円+税)
発行日:
2025/06/18
ISBN:
9784787826862
頁:
244頁
判型:
A5
製本:
並製
在庫:
在庫あり
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序文

はじめに

リハビリテーションとは,病院で行われる機能回復訓練であり,家庭復帰や復学・復職で終了,と人口に膾炙されるようになった.これは1965年以降,半世紀以上に及ぶ諸先輩の努力の賜物であり,尊重されるべきものである.
21世紀を迎えた日本では人口構造が変化し,少子・高齢・多死社会を迎えた.リハビリの対象も,若年者に多い外傷性障害,成人期の特徴である脳血管障害から,高齢者に多い慢性疾患によるものが増えた.
がんは20世紀まで死病として恐れられたが,今日では10年相対生存率が60%となり,慢性病化がいわれている.統計的資料によれば,日本人の半数が生涯に一度は罹患し,がんで人生を終える人が30%になる.日本人の死因の第一位は,1981年から今日に至るまで常に,がんである.
がんは診断から死亡までの時間的余裕がなく,リハビリの対象ではないと考えられていた.その治療成績向上により,診断から死亡までの時間が延長され,リハビリの対象として社会保険制度の対象ともなった.
がんの症状を緩和すると,リハビリが緩和ケアとして役立つことが明らかとなった.ホスピス運動や緩和ケア病棟では,患者の希望を実現する手段としてリハビリの知識と技術が活用された.
この場合,社会復帰はおろか機能回復さえ困難な状況でも,リハビリは今日を生きる患者の希望となり,その日が訪れるまで,人間の尊厳を支える.このような,旧来のリハビリには思いもよらなかった新しい価値,存在意義を知って欲しい,との願望から,この小著は生まれたのである.

2025年6月 安部能成

目次

目 次
はじめに
著者プロフィール
第Ⅰ章 がんリハビリ総論
  0  「歩けないんじゃ,植物と同じ」
  1  終末期リハビリの構造 A:機能回復リハビリ
  2  終末期リハビリの構造 B:機能維持リハビリ
  3  終末期リハビリの構造 C:機能低下リハビリ
  4  終末期リハビリの構造 D:終末期の緩和リハビリ
  5  がんリハビリに関わる4つの領域と4つの次元
  6  がんリハビリの入り口と出口
  7  廃用症候群を回避するために
  8  コミュニケーション技術を見直す
  9  リハビリの未来を広く構築するために

第Ⅱ章 事例から進めてみる終末期リハビリ
A 終末期リハビリへの誤解があった事例
  1   リハビリはきついから嫌です,と拒否した女性
  2   リハビリをやり過ぎてしまう女性

B 様々なコミュニケーションで意思疎通を図った事例
  3   リハビリによる生存確認
  4   取りつく島もない男性
  5   何を話しかけても反応を示さなかった男性
  6   怒りん坊爺さん

C 終末期における患者の強い意志,目的を支えたリハビリ事例
  7   最後まで石にかじりついてでも頑張る,と言った父親
  8   花見に行きたい,自分の足で歩いて,と希望した女性
  9   なぜ歩行禁止か,納得がいかない男性

D 在宅で過ごした終末期リハビリ事例
  10  在宅介護で過ごした家族との日々
  11  娘の卒業式に必ず出たい,と願った母親
  12  折り紙アーチストの自由を満喫した在宅生活
  13  在宅療養と余命予測の思わぬ落とし穴

E 歩きたい─最も多く聞かれる終末期リハビリ事例の要望への応え方
  14  できない要望への応え方
  15  歩くと言い張った男性への対応
  16  自宅で過ごすためにリハビリ方針を変更
  17  歩けるうちは大丈夫
  18  歩けなくても散歩には出られる
  19  リハビリはいつまで継続できるの?

F 痛みについて取り組みのあった終末期リハビリ事例
  20  歩くと痛い──痛くなく歩きたい,と希望した男性事例
  21  動くと痛くなるから,と動かずにいたのに痛みが増した男性
  22  いつも「痛い」しか話さないという患者への応援面談

G 心に問いかけのある終末期リハビリ事例
  23  もう,頑張れない,わたし.
  24  そのリハビリ目的は,賛成できないと感じた事例
  25  俺はモルモットじゃない!─希少がんへの対応

第Ⅲ章 終末期リハビリで知りたくなることQ&A
  Q1   在宅緩和ケアの世界にはじめて関わります.気をつけたいことは?
  Q2   がんの影響で対話の難しい患者さんとのコミュニケーションはどうしたらよい?
  Q3   仕事で患者さんと過ごすのが辛いです.
  Q4   がん終末期のリハビリ目標はどのように設定したらよい?
  Q5   がん終末期の患者さんに,叶えられそうな希望をだしてもらうには?
  Q6   終末期の患者さんが歩けなくなるとき,どんな原因が考えられるか?
  Q7   患者さんの痛みに過不足なく対応するにはどうしたらよい?
  Q8   患者さんと良好な関係を結ぶことができない.
  Q9   患者さんが歩くのを禁止されているのはどんな理由から?
  Q10  終末期に参加できるデイケアがあると聞きましたが,どんなことをするのか?
  Q11  患者さんから,「もう楽になりたい」と言われました.
  Q12  患者さんとご家族の意向が異なり,間に入るのが大変です.
  Q13  終末期のリハビリに意味はあるのでしょうか?
  Q14  看護の「ケア」とリハビリの「ケア」,どこが違うのでしょうか?
  Q15  飲水の制限がある患者さんにできることはある?
  Q16  介護保険での住宅改修は不要ですか?
  Q17  生活保護の患者さんにどう対応しますか?
  Q18  食べなくなった患者さんへの対応で,意見が対立しています.
  Q19  精神的なケアに切り替えていく提案をしたが,反対されています.
  Q20  マッサージやストレッチに効果はあるのでしょうか?
  Q21  リハビリは,いつまで続けられるものでしょうか.
  Q22  無理に身体を動かしたりせず,自宅で穏やかに過ごさせてあげたい.
  Q23  病院勤務から在宅に移って,今までやってきたことが活かせません.
  Q24  在宅緩和ケアに役立つリハビリの勉強をしたい.

索 引
おわりに

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