消化器外科SSI予防のための周術期管理ガイドライン2025
定価:4,950円(税込)
近年,肝臓領域の医療は目覚ましい進歩を遂げています.診断技術の革新や治療法の多様化により,肝疾患診療の現場は日々進化しており,知識のアップデートが欠かせません.特に,かつての“NAFLD/NASH”が“MASLD/MASH”という新たな概念へと転換したことは,従来の分類体系を見直し,生活習慣との関連をより明確に反映した点で,臨床の大きな変化を示しています.
こうした変化に対して,内科医やプライマリケア医,さらには医学生や研修医の方々が戸惑うことも少なくありません.各種ガイドラインや診療指針は多数存在しますが,それらを横断的に,かつ実践に応用可能な形で理解することは容易ではないのが現状です.
本書は,そうした状況を打開し,「非専門医でも無理なく読めて日常診療に応用できる実用書」をコンセプトに企画されました.私は長年,肝臓病診療と教育に携わるなかで,多くの若手医師や他科の先生方が肝疾患の診断・治療に悩む姿を目にしてきました.たとえば,「健康診断でASTとALTが高いけれど,どこまで精査すべきかわからない」「脂肪肝と言われたが,どの患者を専門医に紹介すべきか判断に迷う」といった声は,臨床現場で日常的に耳にします.そうした“あと一歩”を踏み出すための羅針盤を提供したい―その思いが本書の出発点です.
本書の特長は,肝疾患に関する基本から最新までを体系的かつ実践的に整理し,現場で役立つ知識として提示している点にあります.近年注目されているMASLD/MASHの全体像をはじめ,ウイルス性肝炎,アルコール関連肝疾患,自己免疫性肝炎,肝がんなど,日常診療で遭遇しやすい主要疾患を網羅しています.血液検査や画像診断の読み方といった基本から,TACEやRFAなどの介入的治療,がん薬物療法,デジタル療法,さらには将来的な選択肢としての肝移植まで,多角的な診療アプローチを実践的に解説しています.
特に重要な点として,背景疾患をどう見抜くか,また「どこで専門医に紹介すべきか」といった判断の分岐点について,現場で迷わず行動できるような構成としました.MASLD/MASH概念の改訂に伴う国内外の診療ガイドラインの最新動向や,将来を見据えた治療薬パイプラインの情報にも触れ,次の一歩を踏み出す基盤となる知識を提供しています.
本書は,非専門医(プライマリケア医・総合診療医・一般内科医)や専門医を志す若手医師を主な対象としています.そのため,解説は簡潔かつ明瞭であることを重視し,豊富な図表やフローチャートを活用して視覚的な理解を促しています.本文からやや逸れる知識については脚注で補足し,学習効率を高める工夫も随所に取り入れました.判型はA5判とし,診療現場でも移動中でも手軽に参照できる設計となっています.
編集陣には角田圭雄先生,米田正人先生,川中美和先生,瀬古裕也先生という,本領域を牽引する専門家をお迎えし,執筆は第一線の臨床医にご担当いただきました.これにより,内容の正確性と信頼性は万全のものとなっています.
本書が,肝臓病診療にこれから関わる方々,そして日々の臨床で肝疾患患者に向き合う医師,医療者にとって,確かな実用書として末永く役立つことを願ってやみません.
2025年9月吉日
監修・編集者を代表して
監修 中島 淳
肝臓の解剖と機能
まえがき
執筆者一覧
略語一覧
第I部 検査
A 検査総論
B 血液検査
1 総論
2 一般肝機能検査
3 A型肝炎,E型肝炎関連検査
4 B型肝炎関連検査
5 C型肝炎関連検査
6 自己抗体
7 肝線維化マーカー
8 腫瘍マーカー
9 肝予備能検査
COLUMN FIB‒4 indexの有用性と課題
COLUMN 新たな肝線維化マーカー
C 画像検査
1 総論 熊田 卓
2 超音波検査
3 CT検査
4 MRI検査
5 血管造影検査
6 腹腔鏡検査
D その他の検査
1 肝生検
2 がん遺伝子パネル検査
COLUMN EUSガイド下肝生検
COLUMN MASLDにおけるデジタル病理とAIの活用
第II部 疾患
A 疾患総論
1 急性肝炎・急性肝不全の動向
2 急性肝不全における血液浄化療法
3 慢性肝不全(非代償性肝硬変)
4 ACLF(acute‒on‒chronic liver failure)
B 疾患各論
1 A型急性肝炎
2 E型急性肝炎
3 B型慢性肝炎
4 C型慢性肝炎
5 EBV/CMV伝染性単核球症
6 脂肪性肝疾患(SLD)
7 アルコール関連肝疾患(ALD)
8 自己免疫性肝炎(AIH)/原発性胆汁性胆管炎(PBC)/原発性硬化性胆管炎(PSC)
9 IgG4関連疾患(肝・胆道病変)
10 薬物性肝障害(DILI)
11 免疫関連有害事象(irAE)
12 B型肝炎ウイルス(HBV)再活性化
13 肝良性腫瘍
14 肝がん
15 肝硬変
16 門脈圧亢進症
17 食道胃静脈瘤
18 特発性細菌性腹膜炎(SBP)
19 肝性脳症
20 肝サルコイドーシス
21 ウイルソン病
22 Fontan手術後肝障害(FALD)
23 アミロイドーシス
24 ヘモクロマトーシス
25 肝膿瘍
26 Caroli病(先天性多発肝内胆管拡張症)
27 多発性肝囊胞(PCLD)
COLUMN 新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)関連肝障害
第III部 治療
A インターベンション,内科的治療
1 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
2 ラジオ波熱凝固療法(RFA)
3 バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)
4 内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)/内視鏡的硬化療法(EIS)
5 経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)
6 がん薬物療法
7 放射線治療
8 単純血漿交換(PE),血液濾過透析(HDF)
B 食事療法,運動療法,デジタル療法
1 食事療法,運動療法―医師の立場から
2 食事療法,運動療法―管理栄養士の立場から
3 アプリを用いたデジタル療法
C 肝移植
1 適応
2 フォローアップ
第IV部 集中講義
A MASLD/MASH
1 背景と概念
2 国内コホート研究①―CLIONE試験
3 国内コホート研究②―MIRACLE‒J試験
4 デジタル病理画像とAIを用いた脂肪性肝疾患(SLD)の病理診断
5 MASLD/MASHと糖尿病
6 MASLD/MASHにおける遺伝子の関与
7 最新エビデンスを踏まえた診療ガイドライン―今後の改定のポイント
8 海外ガイドラインの状況
COLUMN MASLD/MASHと腸内細菌
COLUMN MASLD/MASHと心血管疾患
COLUMN 治療薬パイプライン
COLUMN 診療に活用できる啓発パンフレット
B 奈良宣言2023
1 活用法
2 肝臓専門医の視点から―Pros and Cons
3 産業医の視点から―Pros and Cons
4 プライマリケア医の視点から―Pros and Cons
第V部 肝臓病と各種制度
A 多職種連携
B 肝炎医療コーディネーターの役割
C 肝臓栄養病態療養士の役割
D 肝臓病連携パス
E 肝炎・肝硬変・肝がん関連の各種制度
F 肝臓領域の難病関連制度
第VI部 附録
A 肝疾患治療薬ダイジェスト
1 抗ウイルス薬
2 肝硬変治療薬
3 代謝改善薬
4 アルコール関連治療薬
B 飲酒量評価法
C 肝予備能評価・スコアリング法
D 薬物性肝障害(DILI)のスコアリングシステム
用語解説(脚注より抜粋)
あとがき
和文索引
欧文・数字索引