
糖尿病専門医研修ガイドブック 改訂第9版
定価:9,680円(税込)
序 文
戦後のベビーブーム世代(団塊の世代)が75歳以上の後期高齢者となった2025年.1976年にスタートした『糖尿病学』も今号で第50集目を迎えた.この間,本書は毎年,その年の糖尿病に関する重要な話題や研究成果を取り上げ,糖尿病の進歩を刻むマイルストーンの役割を果たしてきた.今年も例年通り,日本糖尿病学会年次学術集会の開催に合わせ,本書をお届けできる運びとなった.
さて,この一年も様々なテーマを取り上げることができた.基礎研究の項目では,糖尿病の個別化医療につながる「多民族集団における2型糖尿病ゲノム解析とリスクバリアントのサブタイプ分析」「機械学習に基づく日本人2型糖尿病のサブクラス分類」のほか,病態の理解促進につながる「脂質多様性と代謝ホメオスタシス」「腸内細菌叢」,革新的新薬の創出につながると期待される「褐色脂肪細胞活性化因子」「iPS細胞による再生医療」「SGLT2阻害薬による老化細胞除去」など,最新の知見を第一線の研究者の方々にわかりやすくご紹介いただいた.
臨床研究・展開研究では,プログラム医療機器としての「インスリンポンプ」,多様な効能・効果で注目される「GLP—1受容体作動薬,GIP/GLP—1受容体作動薬」「肥満症治療薬の適正使用」など現場の診療にかかわる最新のトレンドのみならず,外科領域から「膵移植の現状と課題」のほか,社会とのつながりのなかで重要な役割を果たす災害時糖尿病医療支援チーム「DiaMAT」や「糖尿病アドボカシーと新たな呼称がもたらす社会変革」といった取り組みをご紹介いただいた.もちろん,「糖尿病診療ガイドライン2024」の解説もある.
お蔭様で,今年は20編の珠玉の論文をこの一冊に収載することができた.いずれも研究者の弛まざると力と英知と熱意が光り輝く論文である.できるかぎり新しい情報を発信するため,非常に短い期間でご執筆いただいた著者の先生方に心より深謝申し上げる.
令和7年4月
門脇 孝
山内敏正
口絵
序文
執筆者一覧
基礎研究
1.多民族集団における2型糖尿病ゲノム解析とリスクバリアントのサブタイプ分析
[鈴木 顕,山内敏正,門脇 孝]
はじめに:要旨
多民族2型糖尿病GWAS
2.機械学習に基づく日本人2型糖尿病のサブクラス分類
[島袋充生,田辺隼人]
はじめに:糖尿病クラスター分類
クラスター分析に基づく成人型糖尿病のサブクラス
血糖コントロールと糖尿病合併症予防のための治療戦略
おわりに:糖尿病クラスター分類と糖尿病個別化医療
3.生命の脂質多様性と代謝ホメオスタシスの制御
[桑島佑太朗,有田 誠]
はじめに
ノンターゲットリピドミクスを駆使した生体内の脂質多様性の包括的解析
腸内細菌が産生するユニークな脂質分子による腸管ホルモン分泌制御機構
おわりに
4.肥満の新しい調節メカニズム―大腸の脂質代謝酵素による腸内細菌叢の変容の意義
[佐藤弘泰,村上 誠]
はじめに
sPLA2—Xの欠損は肥満を増悪する
sPLA2—Xの欠損は大腸の炎症を増悪し上皮バリアを低下させる
sPLA2—Xの欠損により大腸の高度不飽和脂肪酸が減少する
sPLA2—Xの欠損による代謝への影響はPLA2R1に依存しない
sPLA2—X欠損マウスの肥満増悪の表現型は抗生物質投与または同居飼育により消失する
sPLA2—Xの欠損は腸内細菌叢を変化させ短鎖脂肪酸に影響を及ぼす
おわりに
5.肝臓由来SerpinA1の褐色脂肪細胞活性化による代謝制御
[阪口雅司,岡川章太,窪田直人]
はじめに
脂肪組織
褐色脂肪細胞のインスリンシグナル
SerpinA1による脂肪前駆細胞の増殖および成熟脂肪細胞のミトコンドリア活性化作用
SerpinA1の生体における白色および褐色脂肪組織に及ぼす影響
SerpinA1の褐色脂肪組織への作用メカニズム
おわりに
6.iPS細胞を用いた再生医療
[畑野 悠,長船健二]
はじめに
多能性幹細胞からの膵系譜の分化誘導
臨床試験
拡大培養
病態モデルとしての可能性
立体的膵臓臓器の再構築
おわりに
7.SGLT2阻害薬による老化細胞除去の促進と治療応用への可能性
[勝海悟郎,南野 徹]
はじめに
SGLT2阻害薬がもたらす糖尿病治療効果および心・腎保護効果とその機序に関するパラドックス
細胞老化概説:老化細胞の蓄積と加齢関連疾患の病態への関与
老化細胞除去~senolysis~
SGLT2阻害薬がもたらす老化細胞除去効果とその機序
今後の展望
8.自然免疫と代謝関連病態の最新知見
[西本幸子,大塚憲一郎,福田大受]
要約
はじめに
DNAセンサー
肥満・インスリン抵抗性におけるDNAセンサーの役割
糖尿病性血管障害におけるDNAセンサーの役割
代謝関連病態の治療標的としてのDNAセンサーの可能性
おわりに
9.歯周炎と糖尿病および糖尿病合併症との関連における最新知見
[新城尊徳,西村英紀]
はじめに
インスリン抵抗性・作用不全と歯周炎重症化の関連
糖尿病関連歯周炎の病態形成因子としてのインスリン抵抗性
歯周病が糖尿病合併症にもたらす影響
おわりに
10.分子動力学法を用いたレプチン受容体ミスセンスバリアントのin silico解析
[加藤貴史]
はじめに
LEPRの構造
in silicoアプローチ
ミスセンスバリアント情報の収集
立体構造モデルの構築
フォールディング核
フォールディング核解析とその限界
ドメイン同士を回転屈曲させることが明らかに
結論と今後の展望
臨床研究・展開研究
11.インスリンポンプの進歩
[川村智行]
はじめに
ポンプ療法のタイムライン
TIRの登場とHCLへの道
欧米におけるAIDの現状
AIDの今後
ポンプ療法の将来
12.膵移植の現状と課題
[剣持 敬]
はじめに
膵臓移植の歴史と現状
膵島移植の歴史と現況
わが国の膵臓移植,膵島移植の課題
13.能登半島地震におけるDiaMATの活動
[西田健朗,安西慶三]
これまでのDiaMATの取り組み
令和6年能登半島地震への初期の対応
令和6年能登半島地震への直接支援に向けて
令和6年能登半島地震への直接支援―先遣隊―
令和6年能登半島地震への直接支援
令和6年能登半島地震への直接支援の流れ
DiaMATの課題と今後の対策
おわりに
14.糖尿病診療ガイドライン2024
[田口昭彦,谷澤幸生]
基本理念と社会的背景
エビデンスの構築プロセス
策定組織と連携体制
利益相反マネジメント
改訂要点と臨床応用
ライフステージ別の治療戦略―小児・高齢者・妊婦への対応―
課題と将来展望
おわりに
15.GLP—1受容体作動薬,GIP/GLP—1受容体作動薬の多面的効果
[山田祐一郎]
インクレチンとは
GLP—1受容体作動薬とその分類
GIP/GLP—1受容体作動薬の登場
多面的効果
今後の課題
16.肥満症治療薬の安全・適正使用に関するステートメントを中心とした肥満症治療の現状
[小野 啓,横手幸太郎]
はじめに
自由診療によるGLP—1受容体作動薬の適応外処方と社会問題
安全・適正使用に関するステートメントの発出
最適使用推進ガイドライン
肥満症治療の過不足ない保険適用と将来の展望
17.糖尿病アドボカシーの歴史と新たな呼称がもたらす社会変革
[津村和大,清野 裕]
はじめに
医療におけるアドボカシーの黎明
米国で先行した糖尿病アドボカシーと多様かつ包括的な事業展開
わが国における糖尿病アドボカシーの歩みと解決すべき社会課題の変遷
スティグマの構造的理解と糖尿病特有の患者・医療者関係
新たな呼称が提案された背景と真意
糖尿病の病名・呼称の歴史
新たな病名・呼称検討の歩み
新たな呼称「ダイアベティス」
揺れ動く感情と判断
新たな呼称に期待する社会変革
おわりに
18.グリコアルブミン測定を利用した非/低侵襲な糖尿病管理法の開発
[相原允一,窪田直人,山内敏正]
はじめに
グリコアルブミン(GA)とは
GA値測定の再定義
2週間ごとの静脈血GA値測定は糖尿病管理を改善する
郵送による低侵襲指先血GA値測定の開発
毎週の郵送指先血GA値測定で生活習慣を振り返ると糖尿病管理が改善する
さらなるGA値測定の侵襲性低減を目指して
今後の展開
19.若年発症の糖尿病のトレンドについて
[西岡祐一,杉山雄大,山内敏正,今村知明]
はじめに:リアルワールドデータ(RWD)の活用の現状
背景
方法
結果と考察
おわりに
20.認知障害のある高齢者の糖尿病について
[杉本大貴]
はじめに
糖尿病と認知障害
血糖コントロールと認知障害
高齢者糖尿病における認知障害のスクリーニングツール
カテゴリー分類に基づく血糖コントロール目標値の設定
高齢者糖尿病の認知障害の進展予防
おわりに