新 子どもの救急手技マニュアル
定価:6,160円(税込)
2018年10月11日.
市川光太郎先生が逝去されました.
私がその報せを知ったのは,ちょうど当直中,混雑がやっと落ち着いた深夜の救急外来でした.胸の奥に小さな空洞が生まれたような感覚を抱きながらも気持ちを整え,なんとか勤務を終えたことを今も覚えています.後日,葬儀や一周忌の場で,市川先生が歩まれた道と,その精神を今も体現する全国の八幡チルドレンの存在に圧倒され,またその一員として自らも歩んでいるという誇りと責任を改めて強く意識しました.
「『小児救急治療ガイドライン(改訂第4版)』発刊から5年経ち,その内容と今後のプランを見直すことになりました.お手伝いいただけませんか」と,天本正乃先生よりお声がけをいただいたのが約2年前.恩義を形として示す機会をいただいたことは身に余る光栄であり,同時に私で良いのかという葛藤もありました.それでも多くの同志が集い,想いを共有し,プロジェクトは静かに動き始めました.
編集会議では,改めて市川光太郎先生の情熱とその言葉を反芻しました.
①小児救急は軽症から重症,あらゆる次元に総合的に対応すべきであること
②総合的小児救急として,内科的救急疾患にとどまらず外因系も視野に入れること
③虐待,事故予防,思春期小児の救急など地域社会との協働や長期的継続性を意識した対応
④現場の声を大切にすること
さらに,これまでの『小児救急治療ガイドライン』の本質も見直し,
⑤最新のガイドラインやコンセンサスと,臨床現場のアプローチと融合させること
⑥診断だけでなく,治療まで踏み込むこと
以上の理念を軸に,多くの素晴らしい執筆者に恵まれ,当初の目標を確かに形にできたと確信しています.本書は,市川光太郎先生に捧げる書であり,「市川イズム」を受け継ぎ,次代へと橋渡しする現役医師たちの叡智と経験の結晶といえるでしょう.
ここに,編集者それぞれからいただいたひと言を紹介します.
「常に謙虚に」「子どもにとって信頼できる大人であれ」「小児救急の奥深さを肌で感じ取ろう」「仕事は楽しく」.八幡病院で市川光太郎先生に学んだ言葉と姿勢は,今も私の診療の礎として息づいています.その精神を受け継ぎ全国各地で日々奮闘する“八幡組”の仲間たちが紡いだ本書が,次代の小児救急を照らす灯となることを願っています.
木下正和
十数年前,進路に悩んでいた際に手に取った『小児救急治療ガイドライン(改訂第2版)』が,私が北九州市立八幡病院での後期研修を決意したきっかけでした.市川先生のもとで多くのご指導をいただき,“子どもが困っているなら,まずは対応する”という小児科としての土台を形成することができました.今回,私のキャリアの原点となった本書の編集作業にかかわれたことは,非常に感慨深いものがあります.本書が,小児の診療にかかわるすべての人,特に日々悩みながら診療にあたる若手小児科医の助けとなり,小児救急の奥深さ・醍醐味に触れていただく一助となれば幸いです.
三浦義文
「おい,いつ鳥取に戻ると? 早く戻って,鳥取の小児救急をつくれ.」
市川光太郎先生がご逝去されるわずか2か月前,無菌室でお見舞いした際にいただいた最期のお言葉を,今も鮮明に覚えています.「地方においても子どもたちが等しく救われる医療を築け」という熱い願いが込められたその力強い声は,今も私の背中を支え,前へと押し続けてくださっています.毎日の病棟回診で100人を超える子どもたちを診察してその声なき声に耳を傾け,付き添いの保護者の話を聞き,その不安を軽減すると同時に保護者の家庭看護力を醸成するその姿は,その迫力のある風貌とは似つかない,小児医療そして地域の子どもたちへの愛に満ちた姿でした.本書が,このような市川先生の思いを今に伝え,次の世代の小児医療を照らす一助となることを,心より願っています.
後藤 保
小児救急の世界に足を踏み入れたのは,研修医時代に岡山でご講演してくださった市川先生の言葉がきっかけでした.「子どもであればいつでも・誰でも・なんでも診る」という教えを胸に刻みました.先生が遠くに逝かれてからその教えの深さを改めて知り,もっと学びを請いたいと願いましたが,時はすでに遅く….その思いを受け継ぎ,本書が小児救急を目指す後進の道標になることを心から願っています.
石原唯史
日本の社会構造の変化により,小児救急医療を取り巻く環境は今後も劇的に変化することが予想されます.その激流の中にあっても,小児救急医療は子どもと家族を支える総合的なチーム医療として発展し続ける必要があります.医師はその中心として診療を導く存在ですが,同時に仲間の声に耳を傾け,学び続ける謙虚さを忘れてはなりません.故市川光太郎先生が常に語られた「常に謙虚に」という言葉は,私たちが医療の原点を見失わぬための道標です.本書は,その理念を受け継ぎ,次世代を担う医師たちが真摯に学び,協働を通じてより良い未来の小児救急医療を築くための一助として編まれたものです.
福政宏司
私たちが今,現場で小児救急に向き合い続けているその原点は,八幡で過ごしたあの日々にあります.本書が,市川光太郎先生への静かな献辞であり,次の世代へと受け継がれる灯となることを願ってやみません.本書の執筆にご尽力くださったすべての先生方,コラムを寄せてくださった諸先輩方,診断と治療社編集部の皆様,そして編集チームの仲間とそのご家族に,深く感謝申し上げます.
令和8年2月
竹井寛和
カラー口絵
序文
市川光太郎先生の紹介文
執筆者一覧
総 論
A 小児救急医療の現状と未来 井上信明
B 小児救急外来トリアージ 林 幸子
C 小児の気道管理 賀来真里子
D 小児の呼吸管理 小林 匡
E 小児の循環管理 植田育也
F 小児の意識障害 山鹿友里絵,西村奈穂
G 小児の心停止と蘇生処置 石原唯史
H 小児の蘇生後の管理 三浦義文
I 子どもの死への対応 塚原紘平
各 論
A 中枢神経系疾患
1. 急性脳炎・急性脳症 相良優佳
2. 細菌性髄膜炎 杉 海秀
3. 有熱性けいれん重積・てんかん重積状態 落合健太
4. 無熱性けいれん 落合健太
5. 非外傷性頭蓋内出血 早野駿佑
6. 高血圧性脳症 市村 将
B 呼吸器疾患
1. 急性肺炎 小林 優
2. クループ症候群 一木邦彦
3. 急性細気管支炎 小林 匡
4. 気胸・縦隔気腫 吉田美苗
5. 気管支喘息 沖 剛
6. 急性呼吸窮迫症候群 吉田美苗
C 循環器疾患
1. 先天性心疾患の救急 藤野光洋
2. 心筋炎・心筋症 藤野光洋
3. 感染性心内膜炎 小林 優
4. 不整脈 寺師英子
5. 川崎病 長嶺伸治
D 消化器・肝胆膵疾患
1. 絞扼性腸閉塞 村重皓斉,内田正志
2. 急性虫垂炎 吉元和彦
3. 感染性胃腸炎 小松充孝
4. 腸重積症 小野友輔
5. 肥厚性幽門狭窄症 春松敏夫,山本剛士
6. 鼠径ヘルニア嵌頓 新山 新
7. 消化管出血 春松敏夫,山本剛士
8. 便秘症 小松充孝
9. 急性肝障害・肝不全 井手健太郎
10. 急性膵炎 武知峻輔
E 感染症
1. 敗血症・菌血症 石原唯史
2. 深頸部感染症 菊野里絵,鉄原健一
3. 急性中耳炎 生塩加奈
4. 軟部組織感染症 松島卓哉
5. 化膿性関節炎・骨髄炎 髙野健一
6. 早期乳児の発熱 中村亮太
7. 伝染性発疹症 井本成昭
8. 新型コロナウイルス感染症 井本成昭
F アレルギー・膠原病疾患
1. 食物アレルギー・アナフィラキシー 小野佳代
2. IgA血管炎(アレルギー性紫斑病) 中野慎也
G 代謝・内分泌疾患
1. 低血糖・代謝性アシドーシス 福井香織
2. 糖尿病性ケトアシドーシス 柏坂 舞,尾﨑佳代
3. 甲状腺機能亢進症・低下症 富田一郎
4. 副腎不全 西藤知城,尾﨑佳代
H 血液・腫瘍疾患
1. 発熱性好中球減少症 松石登志哉
2. 貧血 興梠雅彦
3. 出血性疾患 佐藤哲司
4. 腫瘍性疾患 安井昌博
5. ウイルス関連血球貪食症候群 谷岡真司
I 腎泌尿器・生殖器疾患
1. 尿路感染症 中野慎也
2. 急性腎障害・急性腎臓病 青砥悠哉
3. 急性腎炎症候群・急性糸球体腎炎 青砥悠哉
4. ネフローゼ症候群 南川将吾
5. 溶血性尿毒症症候群 南川将吾
6. 電解質異常(Na・K) 加藤宏樹
7. 男性生殖器の救急 竹井寛和
8. 女性生殖器の救急 竹井寛和
J 外因系疾患
1. 異物誤飲(消化管異物) 志村紀彰
2. 窒息・誤嚥(気道異物) 二宮 涼
3. 頭頸部外傷 石川順一
4. 胸部外傷 西山和孝
5. 腹部外傷 西山和孝
6. 四肢外傷 岡畠祥憲
7. 溺水 早野駿佑
8. 熱傷・電撃傷 岡畠祥憲
9. 中毒 福政宏司
10. 熱中症 三浦義文
K 心理・社会的問題の疾患
1. 虐待・ネグレクト 森吉研輔,神薗淳司
2. 精神症状および心理社会的問題 神薗淳司
3. 思春期危急疾患 松島奈穂,神薗淳司
4. 摂食症 松島奈穂,大谷良子
5. 医療的ケア児の救急 藤田弘之
L マイナーエマージェンシー
1. 眼科救急 福政宏司
2. 耳鼻科救急 後藤 保
3. 歯科救急 後藤 保
4. 皮膚科救急 林 卓郎
5. 手指外傷 木下正和
6. 動物咬傷 木下正和
7. BRUE/ALTE 岡田 広
コラム
市川先生との思い出,印象的な一言 今村徳夫
市川先生との思い出,印象的な一言 八坂龍広
市川先生との思い出,印象的な一言 小野友輔,小野佳代
「至誠惻怛」がつなぐ,小児救急と精神医学の架け橋 神薗淳司
市川光太郎先生を慕って 三宅 巧
市川先生との思い出,印象的な一言 大原延年
市川先生との思い出,印象的な一言 岡本好司
索引