明日からできる!子どものADHD診療
定価:4,400円(税込)
近年,ADHDに対する社会的認知の高まりとともに,成人期におけるADHD診療の需要は急速に増加している.かつてADHDは小児期に限局した障害と考えられていたが,現在ではその多くが成人期まで持続し,就労や対人関係,家庭生活にさまざまな影響を及ぼすことが明らかとなっている.
本書は,2025年に刊行された『明日からできる! 子どものADHD診療〜小児科・一般精神科外来での実践ガイド〜』の成人版である.子ども版を上梓するや否や,「早く成人版を出してほしい」という声を数多くいただいた.こうした現場からの強いニーズを受け,診断と治療社の島田つかさ様が社内でご検討くださり,本書は2年続けての刊行というかたちで世に出ることとなった.
振り返ってみると,私が医師になった20年前には,「成人のADHD診療」という分野はほとんど存在していなかった.ADHDは子どもの疾患であり,大人になれば自然と軽快するものと捉えられていた時代である.しかし現在では状況は大きく変わり,精神科診療においてはADHDについてある程度理解していないと,日常診療そのものが成り立たない場面も少なくない.このような変化については,共同編集者の小坂浩隆先生も本書の「おわりに」で触れておられるが,まさにこの20年で臨床の前提そのものが変わったと言ってよいだろう.
一方で,成人のADHDを適切に診断・治療できる医師は依然として限られており,「関心はあるが自信がない」「どこまで一般外来で対応してよいのかわからない」といった声も多く聞かれる.わが国には優れた診療ガイドラインや専門書が存在するものの,それらを実臨床に落とし込むことは必ずしも容易ではない.成人のADHDは,併存症の多さや社会的背景の多様性から,単なる知識だけでは対応が難しく,実践的な判断力が求められる領域である.本書『今日からできる! 成人のADHD診療〜一般精神科外来での実践ガイド〜』は,このような臨床現場のニーズに応えるべく,一般外来での実践に直結する知識と工夫をできるだけコンパクトにまとめたものである.
本書は,まずChapter 1において,成人期ADHDの歴史,疫学,病態について,國井泰人先生に整理していただいた.成人まで持続するという概念の変遷や,神経生物学的背景を理解することは,その後の診療の土台となる.Chapter 2では,診断と評価の実際について,小坂先生と眞田 陸先生にご執筆いただいた.受診経路の多様性,情報収集の工夫,質問紙の活用,鑑別診断や併存症評価など,一般外来で押さえるべきポイントが具体的に示されている.Chapter 3では,心理社会的療法について,太田晴久先生を中心にご解説いただいた.環境調整や疾患教育,就労支援,職場との連携など,成人ならではの課題に対する実践的な対応がまとめられている.Chapter 4では,薬物療法について筆者が担当した.薬物療法の適応判断から薬剤選択,効果判定,副作用対応,切り替えや中止の判断まで,診察室で迷いやすいポイントに焦点を当てている.Chapter 5では,併存症とその対応について,おもに辻井農亜先生にご執筆いただいた.睡眠障害,気分症,不安症,物質使用症など,実臨床で頻繁に遭遇する問題への対応が整理されている.Chapter 6では,診察室での困りごとについて,引き続き辻井先生にご解説いただいた.話が止まらない,約束が守れない,家族や職場との関係など,日常診療で直面する場面に即した工夫が提示されている.最終Chapterでは,女性や中高年のADHD,支援アプリ,家族支援,ニューロモジュレーションなど,筆者の視点から選んだトピックスについてまとめた.最新の知見を紹介しつつ,臨床にどのように活かすかという視点を重視したつもりである.
謝辞:まず,本書を手に取ってくださったすべての先生方,本当にありがとうございます.本書は,これからADHD診療をはじめられる先生方にとっても,すでに診療に携わっておられる先生方にとっても,ADHDを理解し,診療のコツを押さえることで,ADHDを有する方々が明るい未来を切り開くために必ずお役に立てると考えています.本書の完成にあたり,共同編集者として構成・執筆者の選定など本書の方向性を導いてくださった小坂浩隆先生,お忙しい臨床の合間を縫ってご執筆いただいた先生方,また,編集協力として「どこが非専門家にはわかりづらいのか」など貴重なご意見を頂戴した加藤隆弘先生,そして本書の刊行にあたりご尽力いただいた診断と治療社の島田つかさ様に深く御礼申し上げたいと思います.
最後に,あるテレビ番組に出演したことがきっかけで筆者自身が「プロのADHD」であることが全国に知れ渡ってしまったのですが,時にため息をつきながらも日々の生活をサポートしてくれる妻,成長を通して多くの気づきを与えてくれる子どもたち,愛犬ドン,ほめてほめてほめまくって育ててくれた両親に心からの感謝を伝えたいと思います.
2026年4月
髙橋長秀
はじめに 髙橋長秀
編著者紹介
Chapter 1 ADHD診療を行うにあたって知っておいてほしいこと
1 簡単に説明, 成人のADHDの歴史 國井泰人
2 成人のADHDの疫学と原因 國井泰人
3 ADHDの人の脳内では何が起こっているのか? 國井泰人
Chapter 2 ADHDの診断と評価の実際
1 受診まで~さまざまな年齢の方が受診します~ 小坂浩隆,眞田 陸
2 診断の手順~情報の収集の仕方にはコツあり!~ 小坂浩隆,眞田 陸
3 評価の手順~質問紙を使うのが便利!~ 小坂浩隆,眞田 陸
4 鑑別診断①~この検査だけはやっておこう!~ 小坂浩隆,眞田 陸
5 鑑別診断②~この項目だけは確認しておこう!~ 小坂浩隆,眞田 陸
6 併存症の評価~併存することが多いものを頭に入れておこう~ 小坂浩隆,眞田 陸
Chapter 3 ADHDの心理社会的療法
1 ADHD診療で利用できる社会的なリソースにはどのようなものがありますか? 太田晴久
2 環境調整って,具体的に何をしますか? 太田晴久
3 診察室で行う疾患教育について教えてください 太田晴久
4 精神療法について教えてください 國井泰人
5 就労支援について教えてください 太田晴久
6 職場との連携はどのようにとればよいでしょうか? 太田晴久
Chapter 4 ADHDの薬物療法
1 どんなときに薬物療法を検討すればよいでしょうか? 髙橋長秀
2 どの薬剤を選択すればよいですか? 髙橋長秀
3 処方後に効果の確認はどのようにして行いますか? 髙橋長秀
4 処方後に副作用の確認はどのようにして行いますか? 髙橋長秀
5 薬剤の切り替えを検討するのはどのようなときですか?またどのような点に注意が必要ですか? 髙橋長秀
6 薬を続けるか,中止するかを判断する基準はなんですか? 髙橋長秀
7 サプリメントについて相談を受けることがありますが,どう返答したらよいですか? 髙橋長秀
Chapter 5 ADHDの併存症とその対応
1 ADHDの併存症にはどのようなものがありますか? 辻井農亜
2 ADHDの睡眠障害の原因・特徴・対応を教えてください 髙橋長秀
3 ADHDの気分症への対応を教えてください 辻井農亜
4 ADHDの不安症への対応を教えてください 辻井農亜
5 ADHDの物質使用症への対応を教えてください 辻井農亜
6 ADHDのPTSDへの対応を教えてください 國井泰人
Chapter 6 診察室での困りごと
1 話が止まらない患者さんへの上手な対応方法はありますか? 辻井農亜
2 予約に必ず遅れてくる,必要なものを忘れてくる患者さんにできる工夫はありますか? 辻井農亜
3 専門機関に送る目安はありますか? 辻井農亜
4 夫婦喧嘩がはじまってしまったらどうしたらいいですか? 辻井農亜
5 職場の人が受診に同行したいらしいと患者さんに言われました 辻井農亜
6 いくらアドバイスをしてもまったく聞いてくれません 辻井農亜
Chapter 7 ADHDの最近のトピックス
1 女性のADHD 髙橋長秀
2 中高年のADHD 太田晴久
3 ADHD支援アプリ 髙橋長秀
4 ADHD患者の家族支援 髙橋長秀
5 ニューロモジュレーション 髙橋長秀
6 ADHDと運転 髙橋長秀
7 認知症・パーキンソン病との関連 髙橋長秀
Index
おわりに 小坂浩隆
COLUMN
ADHDと視覚機能 髙橋長秀
ADHDの人はなぜ職場で誤解されやすいのか―予測情報処理モデルからみる“行間のズレ” 髙橋長秀
ADHDと創造性は本当に結びつくのか―“才能”と言われることの光と影 髙橋長秀
ADHDと聴覚処理―静かなら聞こえるのに,雑音下で困る理由 髙橋長秀
成人のADHD診療のやりがい―節目の瞬間に立ち会う仕事 髙橋長秀
ADHD診療に役立つ一般雑誌,新聞記事,書籍 髙橋長秀
ADHD診療に活かす「7つの習慣」 髙橋長秀