多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン2025
定価:4,400円(税込)
刊行にあたって
小寺雅也先生は,“手練れ”の臨床家です.中京病院という市中の大規模病院における膠原病リウマチセンター長として,長年にわたりリウマチ・膠原病診療の第一線に立ち続けると同時に,多くの後進の若手医師を育成してこられました.その豊富な経験と幅広く深い知識は,全国的にも稀有な存在です.本書は,そうした小寺先生の頭の中を覗いてみることができる一冊であり,診察現場における目の付け所,考え方,そして判断に至るまでの道筋について,小寺先生の思考のかたちを“疑似体験”することができます.
リウマチ・膠原病の診療は,近年めざましい進歩を遂げています.それに伴って情報量は飛躍的に増大し,常にアップデートが求められる時代となりました.そのなかで医師に本質的に求められるのは,単なる知識量ではなく,診療の道筋をどのように組み立てるかという思考の枠組みです.本書の大きな特徴は,皮膚所見という「入口」から全身の病態へとつなげていく思考の流れを実践的に提示しているところにあります.総論から各論へと自然に流れる構成のなかで,視診・触診の要点,疾患を疑うための着眼点,検査の組み立て方,重症度評価,治療選択,さらには患者指導や長期管理に至るまで,一貫した臨床的視点がわかりやすく示されています.単なる知識の整理ではなく,「診察室で次に何を考えるか」「どの時点で何を決断するか」という具体的な判断のプロセスが丁寧に示されていることこそ,本書が“診療スタンダード”と呼ぶにふさわしい所以といえるでしょう.
さらに特筆すべきは,本書が小寺先生の単著であるという点です.多人数による分担執筆では得がたい視点と記述の統一性,思考と臨床哲学の一貫性が,本書全体の基調を形作っています.また,随所に示される「Dr. 小寺のClinical Insight」は,まさに手練れの臨床家ならではの洞察と重みを備えています.
本書は,必要なエッセンスを過不足なく凝縮しながらも,全体を無理なく通読できる分量にまとめられています.忙しい臨床の合間にも一冊を通して読み進めることができ,知識が断片化することなく体系として身につく構成となっている点も大きな魅力です.専攻医や若手医師はもちろん,経験ある医師にとっても自らの診療を見つめ直す契機となるでしょう.本書が多くの医師の日常診療を支える一冊となり,膠原病患者さんの診療向上につながることを心より願っています.
2026年3月
監修 藤本 学
大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授
はじめに
膠原病・リウマチ性疾患の診療は,いま「専門性の深化」と「臨床現場の複雑化」という2つの潮流の交点にあります.疾患概念や分類は更新され,自己抗体・画像・病理の解像度は高まり,治療は分子標的薬や免疫調整薬の拡充によって選択肢が増えました.一方で,感染症対策,併存症管理,妊娠・出産,就労支援,高齢化に伴うフレイルへの配慮など,治療の周辺にみえる課題が診療の成否を左右する時代になっています.そうした状況で求められるのは,知識の羅列ではなく,診察室で「次に何をするか」を迷わず組み立てられる臨床のロードマップです.本書は,そのロードマップを読者の皆様に手渡すことを目的として編まれました.
本書の特徴は,視診・触診を軸に据え,総論と各論に分けたうえで,筆者が経験した診断・治療,患者指導・自己管理支援などの臨床上のコツを「Dr. 小寺のClinical Insight」として提示し,疾患ごとの理解が最終的に実地の意思決定へ向かうように設計した点です.総論では,本書の構成とねらい,視診・触診の勘所,紹介のタイミング,疾患分類と自己抗体,そして診断プロセスを整理し,臨床推論の骨格を提示しました.続く各論では,全身性エリテマトーデス(SLE),全身性硬化症(SSc),皮膚筋炎/多発性筋炎(DM/PM),関節リウマチ(RA)など主要疾患を取り上げ,“何が本質か/どこで重症度を判定するか/どう治療方針を立てるか/最新知見は何か/患者指導と自己管理をどう支えるか”という共通の枠組みで横断的に学べるよう構成しました.「Dr. 小寺のClinical Insight」では,患者さんの生活機能と将来を見据えた臨床判断の要点や注意点を提示しています.こうした構成により,個々の知識を断片的なものとして終わらせることなく,診療の流れのなかで位置づけて理解できるようにしました.
なぜ今この本が必要か.第一に,膠原病・リウマチ性疾患は,初期には非特異的な症状や軽微な皮膚所見から始まりうる一方で,臓器障害が顕在化すると急速に重症化しうるため,早期の診療が予後を規定します.特に非専門医にとっては,皮膚所見を診療の入口として異常に気づき,「いま紹介すべきか,経過をみてよいか」を判断できるかどうかが,その後の転帰を大きく左右します.第二に,治療の進歩が「寛解・低疾患活動性」を現実的な目標へ変えた反面,免疫抑制下の感染症,合併症,薬剤安全性,ライフイベントへの配慮といった“総合力”が必須になりました.第三に,診療は単独の診療科で完結しにくく,適切な連携こそが患者さんの利益を最大化します.本書は,こうした現代の臨床課題に対し,日々の判断にそのまま使える形で整理することを目指しました.
本書は,専攻医・若手医師にとっては「体系だった足場」として,経験ある臨床家にとっては「知識と実践のアップデート」として役立つことを意図しています.リウマチ・膠原病診療の本質は,不確実性のなかで根拠を積み上げ,必要な評価を怠らず,患者さんと同じ方向を向いて治療を選び続けることです.本書が,読者の皆様の思考と実践をより確かなものとし,患者さんの時間と生活を守る一助となれば幸いです.
2026年3月
編著 小寺雅也
独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院皮膚科 部長/同 膠原病リウマチセンター センター長
刊行にあたって
はじめに
執筆者プロフィール
略語一覧
第Ⅰ部 総論
第1章 基本的な考え方と本書のねらい
A リウマチ・膠原病診療の現在地――視診から始まる診断の精度向上
B 本書の構成と学習の流れ
第2章 視診の戦略 ――見逃しやすい皮疹と診かたのコツ
A 視診の基本手順
B 見逃されやすいサイン
C 視診力を高める工夫
第3章 実地医と専門医の役割分担・紹介のタイミング
A 紹介を検討すべき主な状況
B 実地医と専門医の役割
C 連携のポイント
第4章 疾患分類と自己抗体 ――診断の基礎構造
A 疾患分類の考え方
B 主要自己抗体と臨床的意義
第5章 診断プロセス ――検査・画像・組織診断の統合
A 初期診察のポイント
B 基本検査(血液検査,尿検査)
C 画像検査
D 組織診断(生検)
第6章 薬物療法と副作用管理
A 治療方針の基本的な考え方
B 主要薬剤の特徴と使い方
C 副作用管理
D 支持療法と予防医学
E 今後の展望
第7章 ケア・リハと多職種連携による包括的アプローチ
A ケアとリハビリテーション
B 多職種連携
C 患者指導と自己管理支援
D 包括的アプローチの意義
第Ⅱ部 各論
第1章 全身性エリテマトーデス(SLE)
A SLEとは何か?
B SLEにおける皮膚病変の意義と特徴
C SLEの診断
D SLEの重症度分類と治療方針
E SLEの治療
F SLEの最新知見と今後の展望
G SLEの患者指導と自己管理支援
第2章 全身性硬化症(SSc)
A SScとは何か?
B SScにおける皮膚病変の意義と特徴
C SScの診断
D SScの重症度分類と治療方針
E SScの治療
F SScの最新知見と今後の展望
G SScの患者指導と自己管理支援
第3章 皮膚筋炎・多発性筋炎(DM/PM)
A DM/PMとは何か?
B DM/PMにおける皮膚病変の意義と特徴
C DM/PMの診断
D DM/PMの重症度分類と治療方針
E DM/PMの治療
F DM/PMの最新知見と今後の展望
G DM/PMの患者指導と自己管理支援
第4章 血管炎
A 血管炎とは何か?
B 血管炎における皮膚病変の意義と特徴
C 血管炎の診断
D 血管炎の重症度分類と治療方針
E 血管炎の治療
F 血管炎の最新知見と今後の展望
G 血管炎の患者指導と自己管理支援
第5章 シェーグレン病
A シェーグレン病とは何か?
B シェーグレン病の皮膚症状の意義と特徴
C シェーグレン病の診断
D シェーグレン病の重症度分類と治療方針
E シェーグレン病の治療
F シェーグレン病の最新知見と今後の展望
G シェーグレン病の患者指導と自己管理支援
第6章 関節リウマチ(RA)
A RAとは何か?
B RAの視診・触診―関節炎をどう見抜くか
C RAの診断と検査
D RAの疾患分類・重症度・予後不良因子
E RAの治療戦略
F RAの薬物療法の実際
G RAの関節外病変
H RAの長期管理・ケア・多職種連携
おわりに
和文索引
欧文・数字索引