新 子どもの救急手技マニュアル
定価:6,160円(税込)
巻頭言
救急医療の現場は,常に“時間”との闘いである.限られた情報と不完全な条件のなかで,刻一刻と変化する病態を見極め,迅速かつ正確な診断・治療につなげることが求められる.そのためには,臨床現場での経験に裏打ちされた「観察力」と「判断力」が不可欠である.
私たち救急総合診療科と放射線科は,互いの専門性を最大限に生かし,長年にわたり積み重ねてきた膨大な救急症例を基に,『絶対に見逃さない! 救急画像カンファ100(腹部編)──これが読影のツボだ!』を作成した.本書は,単なる画像集ではなく,臨床医と放射線科医が真に協働して構築した,「実践型診断力向上の書」である.
教科書に載る“典型例”は病態像が明確に描出されている.しかし,現実の救急外来で出会う症例の多くは,典型とは程遠い.症状出現から時間が経過していない初期像,不定愁訴,非典型的な画像所見──そこには,毎日のように“見逃しの罠”が潜んでいる.本書では,そうした現場の現実を踏まえ,臨床所見と画像所見を丁寧に突き合わせることで,「見逃さない目」を養うための本質的な読影のコツを提示した.
救急医が抱える迷いを,放射線科医の確かな目で支える.放射線科医の提示する画像診断を,臨床医が現場の判断に結びつける.この相互の理解と協力こそが,正確な診断と適切な初期対応を導く鍵である.
本書を通じて,若い医師たちが救急現場で「確信をもって診断する力」を養い,ひとつでも多くの見落としを防ぐ手助けとなることを心から願ってやまない.ここに詰めた知見と経験が,明日の救急医療を支える力となることを信じている.
2025年11月吉日
監修
松田剛明
序 文
杏林大学医学部付属病院の救急総合診療科と放射線科では,毎週定期的に画像に関するカンファレンスを行っています.救急外来を受診する多くの患者について,診断のきっかけや決め手となるような画像所見の情報共有,診断困難例における画像の再検討,診療方針決定に関わる画像と臨床情報のすり合わせや協議,典型的な画像所見を示した症例の振り返りによる若手医師への教育,そして時には見逃し例や当初とは異なる診断に至った症例の検討まで,この画像カンファレンスはさまざまな場面で重要な役割を担っています.もちろん日々の臨床現場においても,迅速な画像診断による適切な診断や処置を行うよう努めており,常にお互いにコミュニケーションを取りながら診療を進めていますが,このカンファレンスを通じて詳細な臨床所見や画像所見を再度洗い出し,ディスカッションを行うことで新たな発見や診断につながることもあり,診療のレベルアップとともに医療を受ける患者にとっても非常に有意義であると考えられます.
このカンファレンスは,当初は1 台の画像モニターを囲むかたちで数人のメンバーでスタートしましたが,今では両科のベテランから若手の専門医,専攻医,そして初期臨床研修医,さらに臨床実習の医学生も参加し,活気あふれる場となっています.すでに10 年以上が経過し,その記録は膨大なものとなっており,あらためて振り返ると教育的な症例や教訓的な症例が多く含まれていることがわかります.このたび,診断と治療社のご協力を得て,このカンファレンスの記録をもとに救急総合診療科および放射線科のスタッフによる救急画像に関する書籍を刊行しました.ねらいは,救急診療の現場で直ちに役立つような,そして研修医や若手医師にとって実践的な解決につながるような書籍です.
書籍のスタイルは,救急の現場で手に取りやすく迅速な診断に結び付くように,A5 判のコンパクトサイズとし,見開き2 ページでなるべく簡潔な内容としました.また,救急疾患の診断には臨床所見と画像所見の両者がともに重要であるとの見地から,救急総合診療科のスタッフが臨床所見のポイントを,放射線科のスタッフが画像所見のポイントを分担執筆することにより,どちらも実践的で充実した内容となるような構成としました.救急外来で最も多く遭遇する“腹痛”を主訴とする症例を中心に,日常臨床で遭遇する頻度の高い疾患・病態に絞り込み,文章は箇条書きとし,実際の救急の現場でも参照できるよう工夫しました.全93 項目にわたり,100 症例を超える実際の救急症例画像を掲載しており,日常診療の現場で直ちに応用できる構成としています.またコラムでは,頻度はそれほど高くないものの特徴的な画像所見を示し,知っておくと必ず役立つような症例を盛り込み,より深みが増すような内容としています.
このような構成により,救急診療に携わる医師や画像診断医,初期臨床研修医はもちろんのこと,日頃より救急の現場に関わる診療放射線技師や看護師にとっても,画像の知識を整理する,あるいは一から学ぶ入門書としての役割を果たすなど,多くの方々にとって本書が診療の一助となることを期待しています.
本書は,杏林大学理事長である救急総合診療科の松田剛明教授に監修いただき,また,本書がより充実した内容となるべく企画や構成の段階から救急総合診療科と放射線科で協議を重ねてきました.実際の執筆においては両科のスタッフが総力を挙げて取り組み,杏林発の救急画像テキストを刊行することができました.このことは,我々にとっても大変意義深いものです.そして今回の企画に賛同いただき,終始細やかにサポートいただいた診断と治療社編集部の皆様にこの場をお借りし,深く感謝の意を表します.
本書を救急現場における画像診断の手引き書として活用していただき,より画像を身近なものとして感じ,実際の診療に役立つことを願ってやみません.
2025年11月吉日
編集
横山健一・長谷川 浩
巻頭言
序文
執筆者一覧
第Ⅰ部 消化管
A 腸炎・腸管虚血
001 サルモネラ腸炎
002 アメーバ性腸炎
003 エルシニア腸炎
004 薬剤関連の感染性腸炎(偽膜性腸炎)
005 魚骨による消化管穿孔
006 ループス腸炎
007 虚血性腸炎
008 アニサキス症(胃アニサキス症)
009 非閉塞性腸管虚血
010 腸管嚢胞性気腫症
011 潰瘍性大腸炎
012 クローン病
013 急性胃粘膜病変
014 胃がんによる幽門部狭窄
015 十二指腸潰瘍(穿孔)
016 上腸間膜動脈症候群
017 大腸(下部)内視鏡検査後の消化管穿孔
018 宿便性大腸穿孔
B 腸閉塞
019 絞扼性小腸閉塞
020 術後癒着性小腸閉塞
021 食餌性イレウス
022 大腸がんによる腸閉塞
023 転移性腫瘍による小腸閉塞
024 腸管子宮内膜症による小腸閉塞
025 内ヘルニア
026 麻痺性イレウス
027 腸重積(回盲部)
028 腸重積(小腸)
029 S状結腸軸捻転症
030 胃軸捻転症
031 盲腸軸捻転症
C 虫垂炎・憩室炎
032 急性虫垂炎(カタル性虫垂炎)
033 急性虫垂炎(虫垂結石)
034 急性虫垂炎(バリウム虫垂炎)
035 急性虫垂炎(遠位虫垂炎)
036 虫垂炎(穿孔)
037 虫垂炎(膿瘍形成)
038 虫垂炎(虫垂腺がん合併)
039 上行結腸憩室炎
040 S 状結腸憩室炎(穿孔)
041 下行結腸憩室炎(穿孔)
042 憩室出血
D ヘルニア
043 鼠径ヘルニア
044 閉鎖孔ヘルニア
045 大腿ヘルニア(対側に閉鎖孔ヘルニア)
046 腹壁ヘルニア(Richter型ヘルニア合併)
E その他
047 大網捻転症(大網炎)
048 腹膜垂炎
第Ⅱ部 肝臓・胆嚢・膵臓
A 肝疾患
049 細菌性肝膿瘍
050 アメーバ性肝膿瘍
051 肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)
052 肝細胞がん破裂
053 肝嚢胞感染
B 胆嚢疾患
054 胆嚢結石,急性胆嚢炎
055 急性気腫性胆嚢炎
056 壊疽性胆嚢炎
057 急性胆嚢炎の穿通による肝膿瘍
058 急性胆嚢炎の穿孔による腹腔内膿瘍
059 胆嚢捻転症
060 胆嚢腫瘍(胆嚢がん)
061 黄色肉芽腫性胆嚢炎
C 胆管結石・胆管炎
062 総胆管結石
063 急性胆管炎
D 急性膵炎
064 急性浮腫性膵炎
065 壊死性膵炎,周囲への炎症波及
第Ⅲ部 子宮・卵巣
066 卵巣出血(嚢胞合併)
067 卵巣の内膜症性嚢胞
068 子宮外妊娠(異所性妊娠)
069 卵巣腫瘍茎捻転
070 卵巣腫瘍破裂
071 急性付属器炎(卵管留膿腫)
第Ⅳ部 腎・泌尿器
072 尿管結石
073 急性腎盂腎炎
074 急性巣状細菌性腎炎
075 腎膿瘍・腎周囲膿瘍
076 気腫性腎盂腎炎
077 気腫性膀胱炎
078 腎梗塞
079 腎周囲血腫
080 尿膜管遺残(膿瘍)
第Ⅴ部 その他
081 腹部大動脈瘤破裂
082 炎症性腹部大動脈瘤
083 正中弓状靱帯圧迫症候群
084 分節性動脈中膜融解症
085 腹腔動脈解離
086 上腸間膜動脈閉塞
087 上腸間膜動脈解離
088 脾損傷
089 左胃大網動脈の破裂(仮性動脈瘤破裂)
090 腸腰筋膿瘍・血腫
091 膵腫瘍に対する術後の膿瘍
092 腹直筋血腫
093 腸間膜脂肪織炎
Column
●腹腔内の移動する石灰化病変をみたら…
●右下腹部痛と線状の石灰化をみたら…
●魚を食べたあとに腹痛が続いたら…
●Body packerに注意
●3本のアルミ棒による杙創
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