視る内分泌代謝疾患診療マニュアル
定価:4,620円(税込)
クッシング症候群(CS)の診断は問診と身体診察から本症を疑い,その適否を生化学的検査で確認するという,内分泌疾患診療の醍醐味を最も実感できる疾患の1つである.また迅速な診断と加療により,受診前に存在した深刻な問題(症候)が顕著に改善するため,患者さんやご家族より感謝の言葉をいただく機会が極めて多いこともCSの大きな特徴である.しかしながら,CSの診断時期,治療法,合併症,生命予後にはまだまだ改善の余地がある.希少疾患である本症をできるだけ効率良く,より早期に発見するための予知モデルの確立が望まれている.一方,サブクリニカルクッシング症候群(SCS)はCSと異なり,比較的頻度の高い疾患で,高血圧,耐糖能異常,肥満患者のなかにより多く潜んでいることは間違いないが,これら疾患での網羅的スクリーニングは推奨されていない.治療法については,手術適応に関する議論が長年続いているが,ランダム化前向き研究を含む比較試験の結果が複数示されてきた.
本書,『クッシング症候群診療マニュアル』は2009年に初版,2015年に改訂第2版が出版され,内分泌疾患の診療現場で大いに活用されてきた.しかし,その後も,欧州内分泌学会/ENSATによる副腎偶発腫の管理ガイドライン,Pituitary Societyやわが国におけるクッシング病のガイドライン,WHOによる副腎皮質疾患や下垂体腫瘍の病理分類等の改訂,わが国における副腎性顕性クッシング症候群の診断基準(2026年,予定)の発刊のほか,副腎皮質癌でのオンコパネル,mild autonomous cortisol secretionなど,大きな変更,進展が見られた.
そこで改訂第3版では,髙橋 裕先生と共に第2版の内容を全面的に見直すとともに,この10年の間に改定,解明された事項,今後注目あるいは検討すべき事項を,臨床的重要性を加味して,取り上げた.本書の活用がコルチゾール過剰症の診療レベル向上に寄与すると信じている.改訂に際しご無理をお願いした執筆者の先生方に深く御礼を申し上げる次第である.
聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院代謝・内分泌内科
方波見卓行
この度,『クッシング症候群診療マニュアル 改訂第3版』に関わることになり大変光栄に存じております.そしてお引き受けするにあたりいかに実臨床において有用なものにするかを考えました.
まず第2版が出版されてから約10年が経ち,この領域についても新たな薬剤の上市,新たな病態の解明が相次いでいます.これらの情報を反映させることは必須となります.特に新しい薬剤をどう使いこなすかは重要です.またクッシング症候群ほど診断・治療において内分泌代謝・糖尿病内科専門医,内分泌代謝科専門医としてのセンスと力量が問われるものはありません.その点について,今回私自身が総論として「クッシング症候群を深く理解するために大切な病態生理学―診断・治療がなぜ難しいのか―」についてを具体的に書かせていただきましたので,是非各論に入る前にご一読いただけましたら幸いです.すべての疾患で当てはまることですが,診断・治療を行う際にガイドラインを読むだけでは不十分です.なかでもクッシング症候群においてガイドラインを使いこなすためには,まさに病態生理学を深く理解する必要があります.そしてもちろん本書に記載されている基礎的な知識,臨床のアップデートも含めて熟知することがエキスパートになるために大切です.
斉国,戦国時代の儒学者である孫子の兵法のなかに「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があります.クッシング症候群の診療においては,知識の欠如のみならず,自らの思い込みによって落とし穴に落ちてしまうことを私自身多く経験してきました.それを防ぐためには先人の知恵を生かすこと,また診断・治療のピットフォールを熟知しておくことが大切です.本書にはそのようなノウハウが詰まっています.
本書が多くの先生方のお役に立つこと,そして辛い思いをされている患者さんが一人でも救われることを心から祈念しております.
奈良県立医科大学糖尿病・内分泌内科学
髙橋 裕
口絵カラー
推薦の言葉(改訂第3版) 柳瀬敏彦/山田正三
推薦の言葉(改訂第2版) 井村裕夫
推薦の言葉(初版) 井村裕夫
序文(改訂第3版) 方波見卓行/髙橋 裕
序文(改訂第2版) 平田結喜緒
序文(初版) 平田結喜緒
「内分泌シリーズ」について(改訂第3版) 成瀬光栄
「内分泌シリーズ」について(改訂第2版) 成瀬光栄
内分泌疾患「診療マニュアルシリーズ」について(初版) 成瀬光栄
執筆者一覧
略語一覧
Ⅰ 基礎編
A クッシング症候群を深く理解するために大切な病態生理学―診断・治療がなぜ難しいのか― 髙橋 裕
B CRH
1 CRHの基礎知識
化学構造・合成・分泌調節・作用・受容体・細胞内情報伝達系 新井桂子 他
2 CRHの測定法 今城俊浩
C ACTH
1 ACTHの基礎知識
化学構造・合成・分泌調節・作用・受容体・細胞内情報伝達系 沖 隆
2 ACTHの測定法 沖 隆
D コルチゾール
1 コルチゾールの基礎知識
a.化学構造・合成・分泌調節・作用 宗 友厚
b.受容体・細胞内情報伝達系 柴田洋孝
2 コルチゾールの測定法
a.免疫学的測定法 髙安 忍 他
b.LC MS/MS 宮代好通 他
E DHEA
1 DHEAの基礎知識
化学構造・合成・分泌調節・作用・受容体・細胞内情報伝達系・測定法 柳瀬敏彦
Ⅱ 臨床編(総論)
クッシング症候群に関連した用語について 方波見卓行/髙橋 裕
A クッシング症候群の病態・疫学 西山 充
B クッシング症候群の定義・病型分類 方波見卓行 他
C 慢性高コルチゾール血症による多様な病態生理,注意すべき合併症,薬物療法①高血圧,糖尿病,脂質異常症,心血管合併症 田辺晶代
D 慢性高コルチゾール血症による多様な病態生理,注意すべき合併症,薬物療法②骨合併症,静脈血栓塞栓症 伊澤正一郎
E 慢性高コルチゾール血症による多様な病態生理,注意すべき合併症,薬物療法③感染症,免疫(免疫再構築症候群を含む),精神神経 辻本泰貴 他
F クッシング症候群の機能検査
1 血中・尿中コルチゾール 村澤真吾 他
2 唾液中コルチゾール 小畠正樹 他
3 日中変動 中山修一 他
4 デキサメタゾン抑制試験 山本直希 他
5 CRH試験 新井桂子 他
6 DDAVP試験 蔭山和則 他
7 メチラポン試験 東條克能
8 迅速ACTH試験 中井一貴 他
9 下錐体静脈洞・海綿静脈洞サンプリング 西岡 宏
G クッシング症候群の画像検査
1 クッシング症候群の視床下部・下垂体の画像検査 山田正三
2 クッシング症候群の副腎の画像検査 桑鶴良平
3 クッシング症候群のその他の画像検査 泉山 肇 他
Ⅲ 臨床編(各論)
A ACTH依存性クッシング症候群
1 ACTH依存性クッシング症候群の最近の動向 平田結喜緒
2 ACTH依存性クッシング症候群の鑑別診断のアルゴリズム 平田結喜緒
3 クッシング病
a.病態生理・診断 沖 隆
b.治療
(1)外科的治療 山田正三
(2)術後の補充療法 今城俊浩
(3)放射線治療 菅原 明
(4)定位放射線治療:ガンマナイフ 林 基弘
(5)定位放射線治療:サイバーナイフ 佐藤健吾
(6)クッシング病の内科的治療 沖 隆
c.合併症・予後・QOL 次田 誠 他
d.クッシング病の病理 井野元智恵
4 クッシング病の関連疾患
a.サブクリニカルクッシング病 二川原 健
b.特殊な組織型 石田敦士 他
c.ネルソン症候群 平田結喜緒
d.周期性クッシング症候群 山本雅昭
e.偽性クッシング症候群 方波見卓行 他
f.遺伝性クッシング症候群(MEN等),およびMAS 髙野順子 他
5 異所性ACTH産生腫瘍
a.病態生理・診断 平田結喜緒
b.治療 土井 賢 他
c.合併症・予後 土井 賢 他
d.病理組織 井野元智恵
B ACTH非依存性クッシング症候群
1 ACTH非依存性クッシング症候群の最近の動向 田辺晶代
2 ACTH非依存性クッシング症候群の診断と治療のアルゴリズム 成瀬光栄 他
3 クッシング症候群
a.病態生理・診断 方波見卓行 他
b.治療
(1)手術療法 滝澤奈恵 他
(2)後腹膜アプローチ内視鏡手術 高木敏男
(3)先端型ミニマム創内視鏡下副腎摘除術 石川雄大 他
(4)アブレーションによる治療 石坂和博 他
(5)術後の補充療法 田辺晶代 他
(6)薬物療法 田辺晶代
c.合併症・予後・QOL 田辺晶代 他
d.ACTH非依存性クッシング症候群の病理 笹野公伸
e.病理組織 相羽元彦
4 クッシング症候群の関連疾患
a.サブクリニカルクッシング症候群
(1)概念と診断基準 成瀬光栄 他
(2)海外の基準 方波見卓行 他
(3)診断,治療の課題 方波見卓行 他
(4)合併症・予後・QOL 立木美香
(5)手術適応と意義,術後の補充療法 立木美香
b.BMAD
(1)病態と成因 鈴木佐和子
(2)診断と治療 宗 友厚
(3)外科的治療 今井常夫
(4)BMADの病理 笹野公伸
c.PPNAD
(1)診断と治療 髙野順子 他
(2)病理組織 相羽元彦
d.副腎皮質癌によるクッシング症候群 柳瀬敏彦
e.両側線腫によるクッシング症候群 立木美香
f.原発性アルドステロン症との合併例 吉本貴宣 他
g.小児期のクッシング症候群 柴田浩憲 他
h.コモンディジーズにおけるクッシング症候群 田邉真紀人
i.副腎性クッシング症候群寛解後の問題点 久保ゆい 他
j.妊娠とクッシング症候群 森本 聡
k.高齢者でのクッシング症候群 亀田 啓
l.クッシング症候群と血栓症 阿部一朗
m.クッシング症候群での認知機能障害 大月道夫
n.食事依存性クッシング症候群 奥野陽亮
5 ステロイド治療に伴う病態
a.医原性クッシング症候群 難波多挙
b.ステロイド治療の合併症と病態 竹内靖博
Ⅳ トピックス
1 副腎腫瘍の尿中ステロイドプロフィル 本間桂子 他
2 ACTH産生下垂体腫瘍と今後期待される薬剤 館野 透
3 徐放型グルココルチコイド製剤 堀川玲子
4 iPS細胞由来下垂体ACTH産生細胞による再生医療 須賀英隆 他
5 ステロイド産生細胞と再生医療 加納麻弓子 他
6 コルチゾール産生腺腫の体細胞バリアントとホルモン産生能,腫瘍径 福元多鶴 他
7 クッシング症候群の早期診断の現状と課題 方波見卓行 他
8 副腎皮質癌の非侵襲的診断法 村上正憲
9 クッシング症候群における癌合併リスク 河野貴史 他
10 副腎皮質癌での個別化医療 山下美保
11 コルチゾール過剰症における局在診断 蘆田健二 他
Information
・クッシング病の診療における各ガイドラインの比較 館野 透
・コルチゾール産生病変のWHO分類(第5版):改訂のポイント 中村保宏
・WHO下垂体腫瘍の病理学的分類(PitNET)と課題 長村義之
コラム
・Edward C.Kendall(1886~1972) 平田結喜緒
・Choh H.Li(1913~1987) 平田結喜緒
・Grant W Liddle(1921~1989) 平田結喜緒
・Rosalyn S.Yalow(1921~2011) 平田結喜緒
・Kalman T.Kovacs(1927~2022) 山田正三
・Jules Hardy(1932~2022) 寺本 明
・阿部 薫(1933~2012) 平田結喜緒
・David N.Orth(1933~) 沖 隆
・Wylie W.Vale(1941~2012) 芝﨑 保
・Harvey W.Cushing(1869~1939) 平田結喜緒
・Edward H.Oldfield(1947~2017)とJohn L.Doppman(1928~2000) 平田結喜緒
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