自信がもてるカルテの書き方
定価:3,520円(税込)
改訂第3版 はじめに
我が国において医療を実践する上で,保険診療および社会保障制度に関する正確な理解は不可欠です.しかしながら,小児医療の特性を踏まえ,診療報酬制度や社会保障制度を体系的かつ実務的に解説した書籍はこれまで限られていました.
このような背景のもと,日本小児科学会社会保険委員会により2018年に初版が刊行され,その後の改訂を経て,本書は小児医療に携わる多くの医療者に活用されてきました.この間,我が国の小児医療を取り巻く環境は大きく変化しています.成育基本法の施行を契機とした包括的支援体制の整備に加え,新型コロナウイルス感染症の流行とその収束過程を通じて,医療提供体制や診療報酬体系は大きな影響を受けました.また,医療的ケア児支援法の施行など,子どもと家族を支える制度も拡充されています.さらに,2年ごとに実施される診療報酬改定により,制度運用は継続的に見直されており,最新の知識へのアップデートが不可欠となっています.
こうした状況を踏まえ,本書改訂第3版では,従来の内容を全面的に見直すとともに,新たな制度や実務上重要性の高い事項を加え,より実践的かつ網羅的な構成としました.総論では,保険診療の基本ルール,請求・審査の仕組み,診療報酬改定のプロセス,医療費助成制度および福祉制度について整理しています.各論では,医科点数表の解釈,外来・入院・在宅医療における算定の実際,DPC制度に加え,予防接種,乳幼児健康診査,学校健康診断など,小児科診療に特有の領域を具体的に解説しています.さらに,成育基本法や医療的ケア児支援法といった関連法制度,未承認薬・適応外薬への対応,各種診断書や意見書の作成など,日常診療に直結する実務的事項についても充実を図りました.
日本小児科学会社会保険委員会は,小児医療の実態に即した適切な診療報酬の実現を目指し,データの収集・解析に基づく提言活動を継続して行っています.診療報酬改定は2年ごとに繰り返される不断のプロセスであり,本委員会の活動は小児医療の質と持続性を支える基盤の一つです.本書は,そのような実務と政策の双方に精通した委員により執筆されており,現場で必要とされる知識を一冊で体系的に理解できる内容となっています.
小児医療に携わるすべての医療者が,日常診療において保険診療や社会保障制度に関する疑問に直面した際,本書を活用することで理解を深め,適切な診療の実践につなげていただければ幸いです.
2026年3月
日本小児科学会社会保険委員会担当理事
森岡一朗,窪田 満,石﨑優子
改訂第3版 おわりに
清貧という言葉が示すように,心の清き者は貧しさに耐えることを美徳とする風潮があります.しかし,診療報酬は医療という重責ある業務に対する正当な対価にほかなりません.私たちが患者のために最善を尽くして医療に当たる以上,その営みにふさわしい報酬を求めることは,当然かつ正当なことだと思います.
今回の改訂第3版も,今までと同様に,日本小児科学会社会保険委員会の委員の先生方が手分けして作成されており,その御尽力には感謝しかありません.
改訂第2版を発刊した時期との大きな違いは,新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に合わせて策定された様々な公費負担が終了したことだと思います.但し改訂第3版ではその項目を削除するのではなく,今後再び新興感染症が猛威を振るったときの備えになるように,簡略化して掲載しています.また,時限措置で要件が緩和されていたオンライン診療でしたが,「情報通信機器を用いた診療」として,個別の診療報酬に組み入れられて記載されています.それを含めて各項目に新しい知見が追加されていて,例えば55年通知の項目では,令和7年までに30もの要望が認められたことが記載されていて,未承認薬が広く保険診療として認められてきた実績が示されています.
なお,今回の改訂第3版に載せてある点数は,令和6年度診療報酬改定のものを載せています.脚注に令和8年度診療報酬改定で増点したことが記載されている項目もありますが,詳しい数値は割愛しています.新しい点数は皆様で御確認いただくことにして,まずはこの本で「考え方」を知っていただければと思います.
今,小児医療機関は厳しい経営環境の中にいます.このままでは子どもの救急や入院医療を中止する総合病院が増加するでしょう.小児医療は単なる連携や重点化だけでは解決しない,実際に資金投入が必要なところにまで追い詰められています.ただし,国や自治体からの一時的な資金投入ではSustainability がないのは明白であり,抜本的な医業収益の改善が必要です.このままでは子どものために診療をすればするほど赤字が増大し,小児医療そのものの消滅に繋がります.
診療報酬のことを考えるというのは小児医療を考えることと同義です.医療機関のためではなく,日本中のすべての子どもたちのために必要なことです.小児医療に係わるすべての皆さんに,日本の小児医療をどう支えるか,そのために何が必要か,この本を通して考えていただければと思っております.
2026年3月
日本小児科学会社会保険委員会担当理事
窪田 満,石﨑優子,森岡一朗
改訂第3版 はじめに…森岡一朗,窪田 満,石﨑優子
改訂第2版 はじめに…森岡一朗,窪田 満,楠原浩一
初版 はじめに…細井 創
本書の使い方
執筆者一覧
Ⅰ 総論
①わが国の社会保障と健康保険制度…遠藤明史,横谷 進
②小児科医の医療保険制度に関する意識…長井典子
③保険診療のルールと実際の運用…伊東 藍,稲毛英介,植松悟子,武田充人
❶療養担当規則
❷保険請求と支払制度
❸レセプトと傷病名
❹症状詳記の記載方法と再審査請求
❺保険外併用療養費制度
❻様々な状況における給付
◎幼稚園・保育所や学校におけるケガ(災害共済給付制度)
◎病児保育
◎外国人の診療
◎自動車損害賠償責任保険
◎健康被害の救済
④診療報酬改定の流れと実際の運用…遠藤明史
❶中央社会保険医療協議会(中医協)
❷診療報酬改定に際した厚生労働省及び各団体との折衝
⑤医療費助成制度…井上久美子,祝原賢幸,尾上泰弘,児玉一男,武田充人
❶地方自治体による子ども医療費助成制度
❷小児慢性特定疾病に対する医療費助成制度
❸自立支援医療制度
❹養育医療
❺都道府県による心身障害者医療費助成制度
⑥福祉制度…石﨑優子,尾上泰弘,松島崇浩,柳夲嘉時
❶障害児者のための福祉制度
◎障害者総合支援法に基づくサービス
◎児童福祉法に基づくサービス
◎年金・手当
◎障害者手帳
◎発達障害の子どもの受けるサービス
◎重度障害児者の入院医療
❷貧困・児童虐待に関する福祉制度
⑦小児科医になじみ深い保険診療以外の診療…石﨑優子,井上久美子,貝沼圭吾,長井典子,柳夲嘉時
❶予防接種
◎定期接種
◎任意接種
◎健康保険適用のある予防接種
◎その他の法令に基づいたワクチン
◎個人輸入ワクチン
❷乳幼児健康診査
❸学校健康診断
❹ヘルス・スーパービジョン診察―小児医療の新たな形の提案
⑧子どもにまつわる諸制度をつなぐ法律…遠藤明史,児玉一男
❶子どもの生活に関係する法律・制度の知識(成育基本法)
❷医療的ケア児支援法
⑨小児医療に適切な保険診療を構築する仕組み…稲毛英介,遠藤明史
❶医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬と公知申請
❷「55年通知」と審査情報提供事例
⑩小児科医に必要な書類の知識…稲毛英介,井上久美子,尾上泰弘
❶診断書
❷学校生活管理指導表
❸意見書(公的手続きに必要な診断書を含む)
Ⅱ 各論
①医科点数表を用いた算定方法…稲毛英介
❶医科点数表の構成と算定方法
❷出来高払いと診断群分類による包括払い
②外来診療の基本算定項目…石﨑優子,貝沼圭吾,中林洋介,馬場健児,松田 正,森 伸生,柳夲嘉時
❶外来診療の基本診療料
初診料
再診料
外来診療料
小児かかりつけ診療料
小児科外来診療料
❷医学管理料
小児科療養指導料
特定疾患治療管理料
てんかん指導料
小児特定疾患カウンセリング料
小児悪性腫瘍患者指導管理料
乳幼児育児栄養指導料
院内トリアージ実施料
地域連携小児夜間・休日診療料
診療情報提供料
③入院診療の評価…祝原賢幸,大山昇一,金井雅代,坂口慶太,野坂クナウプ絵美里,横谷 進
❶小児入院医療管理料
❷その他の特定入院料
❸特定入院料・短期滞在手術等基本料を算定しない場合の入院料(入院基本料)
❹入院基本料等加算,その他
④在宅医療の評価…大山昇一,児玉一男
❶小児在宅医療の診療報酬総論
❷小児在宅医療の診療報酬各論―(準)超重症児・医療的ケア児を中心として
❸小児在宅医療の病診連携と多職種連携に関する診療報酬
❹医療的ケア児―小児在宅医療の現在と将来への展望
⑤個別の医療技術の評価…石﨑優子,稲毛英介,中林洋介,道端伸明
❶検査
❷画像診断
❸投薬
❹注射
❺リハビリテーション
❻精神科専門療法
❼処置
❽手術
❾麻酔
❿放射線治療
⓫病理診断
⑥DPC…植松悟子,楠田 聡
❶DPCの成り立ち
❷機能評価係数
❸DPCへの対応
⑦その他これから整備が必要な領域…石﨑優子,稲毛英介,井上久美子,武田充人,野坂クナウプ絵美里,福原里恵,道端伸明
❶子どものターミナルケア
❷移行期医療
❸児童虐待と要支援家庭
❹医師の働き方改革への対応
❺社会保険の調査・研究
⑧新型コロナウイルス感染症,医療制度と診療報酬…中林洋介
❶新型コロナウイルス感染症の流行と小児医療
❷新型コロナウイルス感染症にまつわる診療報酬と自治体による経営支援
付 令和8年度改定におけるベースアップ評価料と物価対応料…稲毛英介
改訂第3版 おわりに 窪田 満,石﨑優子,森岡一朗
改訂第2版 おわりに 窪田 満,楠原浩一,森岡一朗
初版 おわりに 岡 明
索引
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